平安を求める日々
あまりのルームメイトの不摂生と、わたしのストレスや病院がらみの過去が長かったために、少しずつ変わりつつある今までにない平穏な生活に、時折妙な不安を抱えることがある。
そして、普通に生活できるのは新たな不幸の予兆なのではないか、と思うこともある。
罵り合いのない生活、声を張りあげることのない日々、様々なことが脳裏をよぎりピリピリとした気を感じる必要のない安らかな夜、穏やかな気持ちで迎える朝。
でも、理由もなく、ふとした瞬間に、ルームメイトがアルコールを飲み出すのではないか、本当は陰でドラックをしているのではないか、などと思い、急に怖くなったりする。昔の事を思い出して体が震えることもある。
まだ家族が寝ている中、わたしは一人起きて、毎朝決まったルーティーンをこなし、仕事へ行く支度をする。こんな生活も十年以上になる。
最近、頭痛はほとんどない。
身支度しながら鏡の自分をじっと見る。
昔のことを思い出す。
生後間もない子どもを、夜、車に乗せて、バックに詰め込んだ無意味な身の回りのものを助手席に投げ込み、車のエンジンをかける。
まだ帰らぬイかれた夫に失望して、泣きながら夜の田舎道を走ったものだ。
灯などない真っ暗な草原の砂利道。
目の前に見えるのは、自分の車のヘッドライトに映る砂煙だけ。
親の反対も聞き入れず、勝手に決めた結婚祝いに貰った中古車に、石ころが当たる音がする。
こんなことに使うために車を買ってもらったのだろうか。
自分に腹が立ち益々泣けてくる。
どんなにスピードを出しても真っ暗な景色は一向に変わることなく、後ろを振り向けばぐっすり寝ている我が子が、チャイルドシートに乗っている。
車を走らせながら、祖国両親の元へ辿り着きたいと思っていた。
そして我に帰り、道に迷っていることに気づく。祖国へ辿り着くはずもない砂利道を折り返して戻り、アパートの地下駐車場へやっと辿り着く。
数時間前と何ら変わらぬ静まり返った駐車場の冷えた空間は、まるでわたしが戻ってくるまで時間が止まっていたかのようだった。こうして虚しい夜のドライブは終わる。
我に帰り時計を気にしながら、靴を履いて仕事に出かける。そして夕方までは昔のことを思い出すことなく仕事に没頭する。子どもの習い事の送り迎えや買い物、夕食の支度とあっと言う間に夜の十時を過ぎて、一日が終わる。ルームメイトに対する余計な心配や不安が無い分、以前と比べようが無いほどに眠りは深くなった。