アルバイトを始める
ルームメイトはアルバイトを見つけ、夕方から深夜にかけて働きに出るようになった。
車を持っていなかったので、わたしの車で行くという。いやいや、何言ってるのかな、わたしも夕方とか車必要だし。
すべてにおいて考え方が浅いというか、自己中心的なのだ。
「バスで行け。」
とわたしは行った。すると、
「えっ、なんでバスなんかでいかなきゃいけないの。」
と、驚きの回答が返ってきた。更に、
「バスは一時間に一本しかないし、バス停降りてから歩かなくちゃいけないんだぞ。」
と、得意な言い訳をした。ならば四十分かけて自転車でいくか、それもできないならそんなバイトを選ばなければいい、とわたしは彼の口から湧き出る言い訳を聞く前に言い倒した。
どうするのかな、と様子をうかがいながら数日黙って見ていると、大人しくバスでそのバイトに行くようになった。週末のバイトの時はわたしが送ったこともあった。帰りは仕事仲間に家まで送ってもらっていた。
仕事が終わるといつも雇い主と従業員たちは一杯やっていた、が彼は飲めない。不審に思った雇い主が勘付いたようで、ルームメイトは自分がアルコール依存症治療中であることを打ち明けたという。
これはすごい成長であったと思う。幸いにも打ち明けた時に雇い主をはじめそこにいた皆んなが彼を褒めてくれたという。
「アルコールに溺れれば殆どの人間が腐ってしまうのに、戦っているお前はすごい。」
と言われ、認められたことを嬉しく思ったそうだ。
そのバイトに慣れて数ヶ月が過ぎ、何だかんだ文句を言いながらも通い続けた。そして、少しずつ、少しずつドラックの頻度も減り、時々嘘をついてはいるものの悪化はしていない。
それでも、バイト前にルームメイトに喫茶店に行こうと言い、彼の通帳の引出額を時々問い詰めることもしばしばあった。
数日おきに五千円、一万円と引き出している。それは未だドラックを止めていない証拠だった。
もしかしたらやめてくれるかも知れないと希望を持つ反面、やっぱりダメかと諦めの脱力感が入り交じる。