gigiのブログ

国際結婚の末の家族生活の日々

回想〜腹腔鏡下手術

一般病棟へ移り、順調に回復、そして退院することができた。


腹部にはヘソの下、左右骨盤の上あたりに、全部で三か所それぞれ二センチメートルほどの切開の跡が残った。特にへその下は傷口が大きくホッチキスで数か所とめてあった。
腹腔鏡下手術で右側の卵管を切除したということだった。


子宮外妊娠が分かり、受精卵の成長を止めて消えていくのを待つ治療はうまくいかなかったのであった。


あの時の過去に経験したことのない激痛は卵管の破裂だった、そして出血多量で四リットルの輸血をしたそうだ。


「これで君もこの国の血を持つ人間になったね。」


と、嬉しそうに言う彼を、無神経な奴、と思う反面、なんと恐ろしい程にポジティブな、と思った。



手術費用については、この国に住民票もないまま、パスポートが唯一の身分証明だったので、健康保険は適応されず、自費で支払うところだった。だが、幸いにも、妊娠が分かって直ぐに加入したプライベートの保険があり、全額、保険で賄われた。加入して未だ、一、二か月だった為、当初、保険屋から支払い負担を拒否されていたが、緊急手術だったので契約規定通り保険で賄うことができた。保険会社にとっては、とんだとばっちりだったに違いない。



退院後、問診とは別件で、婦長直々に話があるので病院へ来てほしいと連絡が入った。


保険会社との一件があったので、保険会社がらみの話かなと思いながら、彼と共に病院へ出向いた。


別室に通され、婦長という五十代であろう女性が現れた。


まず、手術の経過や今後の妊娠について話し合った。その婦長曰く、卵管を片方無くしても左側がその分も機能を果たすので、なんの問題もなく、妊娠する確率は変わらない、と言われた。人間ってすごい。


そして話は本題へ入る。


「実は、医療ミスがありまして、あなた方は訴訟を起こすことができます。」


といわれた。


婦長は続ける。


「手術の前にメスなどの道具を完全に消毒します。その時点で九十九パーセント以上は消毒されます。この後更に殺菌処理を完璧にするために、道具を専用ケースに入れて殺菌するのですが、あなたの手術をする前にこの殺菌処理をせずに手術をしました。でも、九十九パーセント以上は消毒されていますので、細菌感染することは無いと思います。」


わたしたちは、命を助けて戴いた感謝、手術と保険会社の一件で疲労困ぱいしていたこともあり、訴訟は起こさない意向を口頭で伝えた。


後で万が一何らかの感染が分かったらどうしようかと、ほんの僅かながら頭をよぎったが、弁護士を探して申請するのは、これはこれでまた大変な労力である。



それから三か月後に改めて我が子を妊娠した時は、ここの病院で出産までお世話になる事になるのだった。なぜかというと、その後の私たちの新居に一番近い総合病院だったからだ。


そして、緊急手術で顔見知りになった病院関係者の方々からは、新たな命の誕生まで手厚い看護を受けることになった。


定期健診では、腹腔鏡手術をしてくださった女医の方に妊娠の経過を見てもらうこともあり、その先生が担当の時の定期健診はいつも涙がでるのだった。

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